鉄道模型の寿司屋

 私は子供のころ新宿区の柳町というところに住んでいたのですが、そこには珍しい寿司屋がありました。なんと店内に鉄道模型のレイアウトが飾られていたのです。何のきっかけでそれを知ったのかは覚えていませんが、多分近所の大人が「あの店には鉄道模型があるよ」と言って連れて行ってくれたのではないかと思います。カウンターの対面の壁にショーウインドのように作られたエリアには確かによく作り込まれたレイアウトが飾られていました。外国型の鉄道で、機関区を再現したものでした。多分メルクリンのHOだと思います。ガラス張りになっているので、触ることはできません。奥の壁面は鏡張りになっていました。私がまじまじと見ていると、おやじさんが機関車(電気機関車だったと思います)を動かしてくれました。そのときおやじさんがカウンターから出た記憶がないので、多分、カウンターから操作できるようにしてあったのでしょう。ポイント切り替えなどもやってたはずなので、当時(1960年代)としてはなかなかすごいですよね。機関区の中をゆっくりと移動する機関車を、あこがれと羨望のまなざしで見つめていたのを、今でも鮮明に覚えています。

 私がことさら外国型鉄道模型に惹かれるのは、そのときの強烈な印象が多分に影響しているのでしょう。よく昭和初期の情景がジオラマ化され、懐かしいものの代表のように紹介されますが、私はその時代に少年として過ごしたにもかかわらず、「よく出来ているなー、すごいなー」とは思っても何故か懐かしくは感じません。やはり寿司屋で見た鉄道模型が私の原風景なのでしょう。外国型鉄道模型を見るととても懐かしく感じます。